「大草原の小さな家」を見て考えたこと①~愛する人の手を放すとき

3月の初め、我が家に新しいテレビがやってきた。4K放送も見られるヤツだ。10年前、地デジ対応になったときも画像のあまりの鮮やかさに驚いたものだけど、あれより進化しているなら、一体どんな世界が見られるのだろう。初めて「4K」ボタンを押し、映し出されたのが「大草原の小さな家」だった。

 

1974年放送開始、西部開拓時代のアメリカ(1870年代から1880年代にかけて)を舞台にしたテレビドラマ。2020年の現在、4Kリマスター版がNHK BS4Kで放送中なのだ。46年前の映像そのものの古さは別にして、砂ぼこりと丸太小屋からの煙が漂ってくるような空気感のなかに、丘の緑と木の建物の茶色、そして湖の色。たった150年前の話だというその世界の「背景の色のシンプルさ」を圧倒的に感じた。

「大草原の小さな家」はファミリードラマだ。西部開拓時代、新しい土地に移り住んだ父さんと母さん、そして3人の娘たち。父さんは家を建て、畑を拓き、牛を飼い始める。上の二人の娘は学校に通いはじめる。この家族を主軸に、同じ町の仲間たちとの物語が展開していく。

物語の背景がシンプルだからなのか、「よくある話」のせりふであっても感情の発露がとても鋭く、胸を貫いてくるものが多い。ドラマは10年間にわたって放送され、10歳前後だった子供たちは成長し、やがて育った家から離れていく。ドラマの中の時間の流れは現実よりさらに凝縮されているから当然なのだけれど、まあ子供たちの成長の早いこと。ドラマのシーズン3の中で、長女のメアリーは13歳で幼なじみの恋人からプロポーズされ、それを<喜んで>と受け入れるのだ。

今だったら、小さい子どもが「〇〇くんと結婚するの!」というのと同じ感覚?
違うんだな、これが。

〇幼馴染のジョンは詩を書いており、自作の詩集を出版社に送ったところ返信が→出版される、
創作で食べていける!とメアリーにプロポーズ、メアリーは二人で貯金を始めると宣言
〇訪ねてきた出版社からは、出版はできないが将来性が感じられるので大学進学の費用をすべて出したい、との言葉
〇喜んでメアリーに報告するも、大学へ行くのに離れてしまえばあなたの気持ちは変わる、と浮かない顔
〇将来は一緒に農家をすることを楽しみにしていたジョンの父も落胆
→大切な二人の暗い顔を見て、大学には行かない、ここに残ると決めるジョン
〇ジョンが大学に行かないと言い、ここで農家をやっていくんだ!と大喜びの父。
丘の上にジョンとメアリーを連れていき、この土地に二人の新しい家を建てるんだと次々にアイディアを言い出し、
ジョンとメアリーも目を輝かせる。

 

どうですか、これ。
頭の中で想像したとき、これ現代の20代に入れ替えても全く違和感がないシーンなのだけれど。
ヒロイン、まだ13歳。ちなみにメアリーの父さんはジョンの結婚申込みに対し、
結婚はメアリーが15歳になるまでは許さないが、婚約は認めるとの態度。

時代が違うと言われればそれまでで、10代はじめで初めて恋した相手と結ばれて
そのまま家庭を持つのもこの頃は普通のことだったのかもしれない。
今よりは人生が短いものだったろうし、厳しい時代でもあったろうから
早く大人にならなければ生きていけなかったというのも想像できる。でも。

この回のなかで、個人的にいちばん胸に刺さったこと。
それはメアリーが、ジョンを自分のそばにつかまえておくのではなく、自ら手を放したことだ。

自分の夢を捨てて、地元に残ることにしたジョンは明らかに元気を失い、笑顔をなくしていく。
メアリーは「ふたりの家」のための土地を耕すジョンの姿を見て
「これは(メアリーとジョンの父にとっての)夢。ジョンは農家になるのではなく<詩人になるために生まれてきた人>、
鳥をカゴに閉じ込めてはいけないの」と涙目でジョンの父に訴えるのだ。

20代の頃の自分を思い出しても、こんなことが言えただろうか、と考える。
本意ではなくても自分の側にいることを選んでくれた相手の手を、掴まずにいることができるだろうか?

夢を捨ててしまった彼はもう私の愛する人ではない、とメアリーは感じたのかもしれない。
だから夢を追いかけてほしい、と彼の手を放した。
駅での見送りの場面の<毎日手紙を書いて、あった事を全部教えて>という言葉だけがやけに幼く、13歳の少女に似つかわしくて、
その先に待つ未来も想像できてしまい苦しくなった。

ドラマの中のジョンは、夢を捨て、わかりやすく元気を失くしていったからまだよかったのかもしれない。
賢く優しいメアリーはちゃんとジョンの本心に気づけたから。
かりに彼が、もう少し自分の気持ちを上手くごまかせるタイプだったらどうだったろう?
そしてメアリーが、大切なものは絶対に手放さないタイプだったら?
ジョンの本心に気づいたとしても、相手のことより自分の気持ちを優先させるタイプだったなら?

150年ほど前、たった13歳で、人の心を<カゴに閉じ込めてはいけない>、それが愛する人ならなおさら。という想いを貫いたメアリー。
物語の登場人物の言葉が心に刺さることはこれまでもあったけれど、こんな風に胸を突かれたのは本当に久しぶりかもしれない。

そして150年後、20代なんてとうに過ぎた私も考える。
大切な存在を、自分の気持ちだけでつかまえておくのではなく。
相手が羽ばたこうとするとき、私は手を放すことができるだろうか?

手放しのエッセンス・チコリー

手放しのエッセンス・チコリー(右)

何歳であれ人とつながって生きていこうとするとき、これは永遠の課題になりそうな気がしている。

 

 

 

 

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